産業保健コラム

篠原 耕一


所属:社会保険労務士法人 京都綜合労務管理事務所 所長

専門分野:労働安全衛生関係法令・労働基準関係法令

職場における労働衛生基準の改正について

2022年2月1日

 令和2年8月25日より、職場の清潔保持や休養のための措置、事務所の
作業環境等の規定について、女性活躍の推進、高年齢労働者や障害のある
労働者の働きやすい環境整備への関心の高まり等の社会状況の変化を踏ま
え、現在の実状や関係規定を確認し、必要な見直しを念頭において検討す
る「事務所衛生基準のあり方に関する検討会」が開催され、令和3年3月
24日に報告書としてまとめられています。
 これを受け、職場における労働衛生基準が改正されましたが、おもな点
は以下のとおりです。

 

1.作業面の照度【事務所則第10条】(令和4年12月1日施行)
  事務所のみを対象に、現在の知見に基づいて事務作業の区分が変更さ
  れ、基準が引き上げられます。
  現在、精密な作業(300ルクス以上)、普通の作業(150ルクス以上)、
  粗な作業(75ルクス以上)の3区分で作業を行うときの明るさの基準が
  設けられていますが、今回の改正により、作業区分は2区分となり、
  以下の通り基準が引き上げられます。
  (1)一般的な事務作業(300ルクス以上)
  (2)付随的な事務作業(150ルクス以上)
  なお、照度基準についてはJIS規格に示されており、個々の事務作業に
  応じた適切な照度については、作業ごとにJISZ 9110などの基準
  (例として、設計室なら750ルクス)を参照することとされています。

 

2.便所の設備【事務所則第17条、安衛則第628条】(令和3年12月1日施行)
(ア)少人数の事務所における男女区別の例外
   少人数(同時に就業する労働者が常時10人以内)の事業場において、
  建物の構造の理由からやむを得ない場合(例として、住居として使用す
  ることを前提として建築された集合住宅の一室を作業場として使用し
  ている場合など、便所が1箇所しか設けられておらず、建物の構造や
  配管の敷設状況から、男性用便房、男性用小便所、女性用便房の全て
  を設けることが困難な場合)などについては、今回の改正により、独立
  個室型の便所(男性用と女性用を区別しない四方を壁等で囲まれた一個
  の便房により構成される便所)で足りることとなりました。
   なお、男性用と女性用に区別して設けることが原則であることに変
  わりはなく、既存の男女別便所を廃止することはできません。
(イ)男性用と女性用に区別した便所を各々設置した上で付加的に設ける
便所の取扱い
  男性用と女性用の便所を設けた上で、独立個室型の便所を設けたと
  きは、男性用及び女性用の便所の設置基準に一定数反映させることと
  なりました。
  設置基準は、事務所則第17条及び労働安全衛生規則第628条におい
  て、同時に就業する労働者の人数に応じて、以下のとおり定められて
  います。
   ①男性用大便所の便房の数は、同時に就業する男性労働者60人以内
    ごとに1個以上とすること。
   ②男性用小便所の箇所数は、同時に就業する男性労働者30人以内
    ごとに1個以上とすること。
   ③女性用便所の便房の数は、同時に就業する女性労働者20人以内
    ごとに1個以上とすること。
   今回の改正により、独立個室型の便所を設けたときは、上記の男性用
  大便所又は女性用便所の便房の数若しくは男性用小便所の箇所数を算
  定する際に基準とする当該事業場における同時に就業する労働者の数
  について、独立個室型の便所1個につき男女それぞれ10人ずつ減らす
  ことができることとなりました。

 

3.救急用具の内容【安衛則第634条】(令和3年12月1日施行)
  救急用具については、これまで、労働安全衛生規則において、以下の
  とおり規定されていました。
(救急用具)
(救急用具)
  第633条 事業者は、負傷者の手当に必要な救急用具及び材料を備え、
  その備付け場所及び使用方法を労働者に周知させなければならない。
  2 事業者は、前項の救急用具及び材料を常時清潔に保たなければなら
  ない。
(救急用具の内容)
  第634条 事業者は、前条第一項の救急用具及び材料として、少なくと
  も、次の品目を備えなければならない。
  (1)ほう帯材料、ピンセツト及び消毒薬
  (2)高熱物体を取り扱う作業場その他火傷のおそれのある作業場につい
   ては、火傷薬
  (3)重傷者を生ずるおそれのある作業場については、止血帯、副木、
   担架等
 労働災害等により労働者が負傷し、又は疾病に罹患した場合には、速やかに医療機関に搬送することが基本であることや、事業場ごとに負傷や疾病の発生状況が異なることから、今回の改正により、事業場に備えるべき救急用具・材料について、一律に備えなければならない具体的な品目を規定した上記第634条第1号から第3号は削除されました。
  ただし、負傷等の状況や事業場が置かれた環境によっては、事業場において負傷者の応急手当を行う場合もあるため、職場で発生することが想定される労働災害等に応じ、応急手当に必要なものを、リスクアセスメントの結果、産業医等の意見、衛生委員会等での調査審議、検討等を踏まえ、各事業場において備え付けることとなりました。
  詳細につきましては、施行通達や質疑応答集も示されておりますので、厚生労働省のホームページをご確認下さい。

 

事務所における労働衛生対策
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000207439_00007.html

篠原 耕一