産業保健コラム

篠原 耕一


所属:社会保険労務士法人 京都綜合労務管理事務所 所長

専門分野:労働安全衛生関係法令・労働基準関係法令

働き方改革「同一労働・同一賃金」に思う

2020年2月3日

 働き方改革が求められる中、法改正に伴って労働条件の見直しについての相談を受ける機会や講師として話す機会が増えてきた。その中で、いわゆる「同一労働・同一賃金」に向けた労働条件の見直しは、無期雇用・フルタイムの通常労働者と、有期雇用・短時間雇用の労働者との間の不合理な待遇差をあらためようとするものであるが、労働安全衛生法令に基づく健康診断やストレスチェックも、法令上は「常時使用する労働者」を対象とするが、行政解釈により、通常労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3に満たない短時間労働者は対象から外れるという運用がなされている。「同一労働・同一賃金」同様、働き方改革実行計画にも明記された「病気の治療と仕事の両立」実現のためにも、病の早期発見・治療につながる健康診断の対象についても、この機会に各社で検討されて良いのではないかと考える。

 

 小規模のとある会社では、最も日数が少ない週2日勤務のパート社員さんも含め、全員に健康診断が実施されていた。その経緯を尋ねると、健康を過信していた社長自らが大病を患い、それを機にパート社員さんを含めた全ての社員を健康診断の対象としたところ、これまで健診対象でなかったパート社員の方の病を早期発見することができ、数日の入院と3か月の通院で良くなられたとのことであった。まさに「仕事と治療の両立」の好事例である。

 

 逆に、病の発見が遅れ、治療が長期化してしまうと、企業規模の大小に関わらず「仕事と治療の両立」の達成が困難になっていくと考えられ、法令による運用はともかく、自社の健診対象を見直す良い機会ではなかろうか。  加えて、こうした「法令以上の運用」をされる場合は、経営者が代替わりした後も、自社の運用が継続されること、言うなれば「健康文化」として全員健診が受け継がれていく必要がある。そのためには、なぜ我が社の健診は全社員を対象にするのか、その経緯までを代々の経営者と担当者は、それぞれ後継者と後任者に受け継いでいく必要がある。  会社にある安全衛生のルールにしても、それが決められた何らかの経緯があるはずである。この経緯まで受け継がれてこそ、ルールは守られ、実践される。

篠原 耕一