産業保健コラム

桑村 明男


所属:(一社)産業安全衛生研究所 理事長

専門分野:産業衛生・労働衛生工学

体調不良がもたらす企業の損失とストレスチェックおよびデータヘルスの活用

2015年8月3日

納期が遅れがち、受注が減る、残業が増える、決済が遅れる、書類の回覧が遅い、労災が増える、接客が雑になる、提案件数が減る・・・、多くの企業においてこのよう状況が日常的に少なからず発生しているのではないでしょうか。それを単なるサボリだ、仕事には波があるから、能力の問題だ、教育が不十分だ、と片付けていませんか?
 確かにそうしたことが原因となっていることもあるでしょう。しかし、さらに追究していくとそこには、ストレス、片頭痛、腰痛、軽うつ病、風邪、アレルギー性鼻炎、関節炎・・・といった病気が隠れていることも少なくありません。例えば、春先の決算時期になると残業が増える、まあ決算業務は大変だから仕方ない。いやいや、よく観察したら鼻をかんだり、目薬を差したり、マスクをしているので息苦しそう、何だか眠そうにしている人もいます。誰も欠勤することなく職場にいますが、なかなか決算がまとまらない。
 出勤しているにも関わらず、心身の健康上の問題により、充分にパフォーマンスが上がらない状態を「プレゼンティズム」と言います。これは1955 年にアメリカの Aurenにより造られた言葉で、現在は一般的に使用されている概念です。
 春先の花粉症のみならず、最近はストレスによるメンタル不調で、出勤しているけれど仕事に集中できず捗らない、パワハラ上司がいてしんどいけど休めない、でも仕事はこなせない、といった訴えをよく耳にします。このような状況を放置すると、職場の効率低下のみならず、企業活動全体に影響が拡がることになりかねません。
 本来であれば労働者が不調を感じたとき、健康を取り戻すためには適切な休養を取るか、適切な治療を受けるか、あるいはその両方を実行することが必要です。
本年度より、企業と健保組合とのコラボによる保健事業「データヘルス」がスタートしました。これは、健診データや医療費などの客観的な情報をもとに、効果的な保健事業を企業・健保組合が連携して実施するものです。
 今まであまり対策されてこなかったプレゼンティズムという状況。その影響が経済的な損失として算出しにくいといった面があり注目されませんでしたが、最近いろいろな研究機関でプレゼンティズム尺度を開発していると言うことを聞きます。今後、このような尺度を利用して分析し、対策を立て実行する、といったことが企業の安全衛生活動の中心になってきます。
 本年度から義務化された「ストレスチェック」、そしてもう一つ、「データヘルス」を十分に活用し対策を取ることが大切だと思います。

桑村 明男