産業保健コラム

桑村 明男


所属:(一社)産業安全衛生研究所 理事長

専門分野:産業衛生・労働衛生工学

従業員の健康増進と経営戦略

2015年2月2日

 2025年には団塊の世代がすべて後期高齢者になります。
 2010年における日本の総人口が約1億2800万人、15歳~64歳の人口が約8100万人これに比べて2025年の総人口が推定1億2000万人、15歳~64歳の推定人口は7600万人。労働可能人口が500万人も減少します。間違いなく人手不足の時代が到来します。いや、もう始まっています。街のいたる所に求人広告が目につきますし、コンビニやスーパーには求人の張り紙が数多く見られます。今後、「人手不足」倒産も増えるかも知れません。
 人口減対策は取り敢えずさて置き、ここでは従業員の定着率を高め、さらには優秀な人材を採用するにはどうすればいいか、と云うことを従業員の健康増進という視点から考えてみたいと思います。定着率を高めるには、高賃金、きれいなオフィス、美味しい社員食堂、やりがいのある仕事、フレックスタイム制等々いろいろあるかも知れませんが、一番大切なことは健康で活き活きと働ける職場作りではないでしょうか。昨今、社員をより健康にすることで会社の業績を向上させる取り組みが新たな経営戦略として注目されています。「健康会計」や「健康戦略」といった書名の本が増えてきました。
 長時間労働を黙認する、有給休暇を取らせない管理職は今後淘汰されていく時代が来ると思います。10年先、20年先を見据えた人事マネジメントの構築が必要です。いま始めないと将来後悔するかも知れません。
 社員の健康は健康(安全)配慮義務があるから仕方なしに取組むのではなく、企業の戦略テーマの一つと捉えることが重要です。例えば健康診断の有所見者を減らすだけでも長い時間が掛かります。しかし間違いなく効果は出ます。医療費、不意の病欠、うっかりミスによる不良品の作り込みや流出、労働災害などが減少します。従業員が健康増進と企業の成長を重ね合わせて実感できるような職場は生産性が高く品質も安定し、また労働災害やメンタル不調者は少なくなるのではないでしょうか。従業員が健康で活き活きと働ける環境を整えることが企業にとって最重要課題の一つとなる時代はすでに始まっています。
 コンサルタントとして常に変化の兆しを敏感に捉え、より実践的な情報発信に取り組みたいと思っています。

桑村 明男