産業保健コラム

高田 志郎


所属:(一財)京都工場保健会 顧問

専門分野:健康、安全、環境の分野

難聴予備軍について

2017年1月5日

 昨今、スマホの普及により、社会通念上の困った問題が多数浮上してい
ます。その一つが、「ながらスマホ」と呼ばれている歩きながらのスマホ
の操作です。さすがに、バイクの運転中の操作は見られませんが、自動車
とか自転車になると、結構多く見られます。さて、自動車の運転中にスマ
ホの操作をしていれば、危険運転として罰則の適用がありますが、自転車
の走行中のスマホの操作はどうでしょう。実は、自転車の場合も、危険運
転として注意をされますが、直ちに罰則を受けることはありません。自転
車を運転する人の中には、自転車が道路交通法上、車両(軽車両)として
の規制を受けることを知らない人がたいへん多いようで、「自転車は、ど
こを走ってもいい。」とか「どんな走り方をしてもいい。」と思っている
ようです。ただ、これらの危険行為を続けていますと、強制的に安全運転
講習(受講料が高額)を受けさせられたり、罰金を科せられることになり
ます。

 さて、これらの人たちに「危険ですよ!」と注意しても本人にはわかり
ません。なぜなら、イヤホン等を着用している場合が多く、外部の音(騒
音)を遮断しているからです。運転中のイヤホン等の着用も、危険運転と
して禁止されています。もっとも、中にはわかっていても知らぬ顔で注意
を無視する人もいます。

 今度は、歩行者に目を向けてみましょう。こちらも歩きながらスマホの
操作およびイヤホンを着用している人の多さに驚かされます。また、電車
とかバスに乗ってもまわりはイヤホンだらけです。私たち(騒音関係の専
門家)は、これらの人たちを「難聴予備軍」と呼んでいます。30年近く前
のことでしたが、ある耳鼻科の先生が、「楽しい音楽等( いわゆる楽音)
は、少しぐらい大きい音量で聞いていても難聴にはならない。」と言って
いました。 これは大きな間違いです。人はどのような種類の音であって
も、大きな音を長時間聞くだけで難聴になります。例えば、パチンコ店に
毎日1時間ほど入っているだけで数年先には難聴になる可能性が大きくな
ります。

 一方、同じ時期に、調査研究のために群馬県の嬬恋村という所で住民の
方の聴力測定をしたことがあります。屋外では、はるか遠くの小川のせせ
らぎが聞こえるほど静かな環境です。驚くことに、この地域に住んでいる
方たちは、他の都府県の調査結果に比べて10~15デシベルほどよく聞こえ
ていました。これからもわかるように、毎日イヤホン等からの騒音に曝さ
れている人たちは、それだけ聴力損失を積み重ねていることになります。
ゲームセンターとかパチンコ店に入るときは、耳栓等の保護具を着用する
ことをお勧めします。これからは、自分の聴力を大切にしましょう。

高田 志郎