産業保健コラム

村田 理絵


所属:(一財)京都工場保健会 診療部 健康管理課 課長

専門分野:産業保健・保健指導

TA心理学を活用したメンタルヘルスケアより  “ストローク論”を知ることは労働生産性を向上する一助となる!?

2019年9月2日

 2019年4月に施行された“働き方改革関連法”によって、企業において
は時間やコストを投じて様々な取組みが進んでいることと思います。皆様
の職場では、働き方改革の効果はでていますでしょうか?
 働き方改革を行う目的は、一人ひとりの意思や能力、個々の事情に応じ
た、多様で柔軟な働き方を選択可能とする社会を追求していくことで、
“労働者にとっての働きやすさ”を実現し、労働力の確保と労働生産性を
改善するための最良の手段としていくことです。
 働き方改革を推進していく必要な要素として、経営層や管理職の意識
改革の重要性が言われています。

 

 当センターでは、毎年恒例で豊田直子先生(株式会社ホリスティックコ
ミュニケーション 代表取締役)をお招きし、今年は「TA心理学(交流分
析)を活用したメンタルヘルスケア(全3回シリーズ)」というテーマでご講
義頂いております。研修に参加された産業看護職や衛生管理者、人事労務
担当者の方々に「知る・わかる」だけではなく、管理職向けの意識改革と
しても「できる・使える」研修であると大変好評でしたので講義内容の
一部をご紹介致します。

 

1.ストロークとは何か?
  ストロークという言葉は英語ではStrokesと言い、「打つ」「振る
 更には「なでる」「さする」等の身体的接触の意味があり、スポーツや
 医療、音楽等でも使われますが、TA(交流分析)では、言語・非言語全
 て含めて「存在を認める行為」のことを指します。
 豊田先生は、ストロークを別名「心の栄養」と表現され、職場や家庭内
 等の“コミュニケーションの質を高める”重要なキーワードであり、
 “人間が生きていくために絶対に必要なもの”とおっしゃっていました。

 

2.「セカンド・チャンス」という題名の実録映画より
  ストロークが極端に欠乏したために発育不良を起こした実際の話が、
 「セカンド・チャンス」という記録映画として残されています。主人公
 のスーザンという女の子は、生まれた時から両親の肉体的・心理的な
 ストロークが欠如したため、発育異常をきたしたのですが、病院のスタ
 ッフによって肉体的・心理的なストロークを十分に受け、第2の成長の
 チャンスをつかんだのです。
 TA創始者のエリック・バーンは、「幼児に十分なストロークが与え
 られないと、その子の脊髄は委縮して成長が遅れ、知能的・情緒的に
 十分発育しない」と述べています。
 スーザンのケースは、ストローク欠乏による「ストローク飢餓状態」が
 もたらす結果をしめしています。
 エリック・バーンは「人はストロークを得るために生きている」とも
 言っています。私達人間は一人では生きていけません。ストロークは
 活動の源泉となるのです。

 

3.ストロークの種類
  ストロークは、「プラス・マイナス」「言語・非言語」存在・行動
 の3点で分類できます。
 【プラス】
  言語:挨拶、声掛け、褒める、雑談、傾聴…
  非言語:笑顔、撫でる、ハグする、握手する…
  存在:あなたがいてよかった…
  行動:朝、早いのは偉いね…
 【マイナス】
  言語:悪口、皮肉、暴言…
  非言語:無視、暴力…
  存在:死ね、辞めてしまえ…
  行動:朝、遅いのはだめだよ…

 

4.ストロークの法則
  「人はプラスのストロークを求めようとします。しかし、それが得
 られないと、マイナスのストロークをも求めようとします」
  例えば、上司が部下に対して関心を向けずに何もストロークを与え
 なかった場合、その部下は職場で不適切な言動や行動が多くなります。
 いわゆるストローク飢餓に陥っている状態となります。そのような場
 合、上司が部下を叱ります。その部下の行為は潜在的に無視されるより
 はマシなため、叱られるようなマイナスのストロークでもストロークを
 得ようとしていると説明できます。こうした部下の兆候が現れたら、
 プラスのストローク(傾聴)で耳を傾ける必要があります。

 

5.ストロークバンク
  人はだれでも、心の中に“ストロークバンク(ストロークの銀行)”を
 もっています。自分の心の中にプラスのストロークが貯まっていれば、
 他人からのマイナスストロークを受け流すことができるし、他人に対し
 てもプラスのストロークを与える余裕もあります。逆にプラスストロー
 クがないと、他人のマイナスストロークを受け止めてしまい、他人に
 プラスストロークを与える余裕はありません。
 ちなみに自分の気持ちを高めることができるプラスストロークは、他人
 からだけでなく、様々なものがプラスストロークになり得ます(音楽・
 自然・スポーツ・おいしい食事・思い出・空想等)。

 

 豊田先生の講義を受けて、ストロークがどんなものであるかについて
理解することで、これまで漠然とした人間関係の問題点が明らかになって
いき、職場の中でプラスストロークの行動を増やしていくことが労働生産
性を向上させる一助になるのではないかと感じた次第です。

 

 2時間とおしでの講義だったのですが、具体的な事例を交えて、他の
参加者と情報共有しながら行う参加型の講義だったため、あっという間の
楽しい時間でした。豊田先生の講義は、参加者自身が考えてもらえるよう
な質問を投げかけることで参加者自身に気づきが生まれ、参加者が行動
変容しやすい様から“豊田マジック”と言われています。豊田先生の3回
目の講義は、2020年1月に予定しています。一度“豊田マジック”を体感
してみませんか。

 

【引用・参考文献】
1)株式会社西日本出版社発行、ギスギスした人間関係をまーるくする
  心理学 ~エリック・バーンのTA~、安部朋子
2)株式会社西日本出版社発行、エリック・バーンのTA組織論、安部朋子
3)株式会社金子書房、メンタルヘルスに活かすTA 実践ワーク、畔柳 修

村田 理絵