産業保健コラム

村田 理絵


所属:(一財)京都工場保健会 診療部 健康管理課 課長

専門分野:産業保健・保健指導

個人の楽しみであるアルコールを制限するアプローチ方法って?

2017年8月1日

 保健指導において、アルコール対策に悩んでいる保健指導者は多いので
はないでしょうか。
 飲酒は嗜好であるから飲酒者個人の責任に任せておいてよいという考え
方も一部に未だ根強くあります。
 また、日本の文化や風習の中で、飲酒は冠婚葬祭や会合等に欠かせない
ものであり、「酒は百薬の長」としての飲酒の効用の面が強調され、これ
まで、飲酒運転と未成年者の飲酒が法的に規制されている以外には具体的
対策が採られてないこと、学校や医学教育においても、飲酒に伴うリスク
について正しい知識の普及、啓発が十分になされていないこと等の背景か
らもアルコール対策を難しくしている要因と思われます。

 2010年5月にWHOでアルコールの有害な使用を低減するための世界戦
略」が採択されたことを受け2013年12月に「アルコール健康障害対策基
本法」が制定され、アルコール依存症対策だけでなく、“多量飲酒”につ
いても対策が必要とされています。「健康日本21(第二次)」でも、生活
習慣病のリスクを高める量を飲酒している者(1日当たりの純アルコール
摂取量が男性40g以上女性20g以上の者)を減少させるという目標を掲げ
ています。

 アルコールを飲んでいる人の多くは、普段自分がそれほど多く飲んでい
るという自覚が乏しいため、飲酒量を「ドリンク(純アルコール10g=1
ドリンク)」で算出し、適正飲酒の指標(男性2ドリンク、女性1ドリン
クが適量)とその意味を客観的に伝えるだけでも効果があるといわれてい
ます。

 特定保健指導でも推奨されているAUDIT(オーディット)*1というアル
コール問題のスクリーニングテストを使用し、普段の飲酒の評価をし、リ
スクの高い飲酒の方には、減酒支援という名のブリーフインターベンショ
ン*2を行いましょう。
 ちなみに減酒支援の対象は、依存症ではない“多量飲酒者”に対して行
う支援です。

*1:AUDIT(オーディット):Alcohol Use Disorders Identification
 Test、アルコール使用障害同定テスト、アルコール問題のスクリーニ
 ングの一つ。WHOが問題飲酒を早期に発見する目的で作成したもので、
 世界で最もよく使われています。

*2:減酒支援(ブリーフインターベンション):Brief Intervention、
 対象者の特定の行動(この場合は飲酒行動)に変化をもたらすことを
 目的とした短時間のカウンセリング海外では活発に用いられています。

※産業保健と看護2017 vol.9 no4の原稿をもとに一部引用させて頂きま
 した。
 ご関心のある方は、村田理絵.産業看護実践Q&A.産業保健と看護.
 9(4)2017.76-77をご参照ください。

【その他参考文献・参考サイト】
1)厚生労働省 標準的な健診・保健指導プログラム【改訂版】2013,

  183-92
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/seikatsu/dl/hoken-program3_06.pdf
2)独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター発行、アルコール
  問題早期介入のストラテジーHAPPYプログラム使用マニュアル第4版
  杠 岳文
3)アル法ネットHP(アルコール健康障害対策基本法推進ネットワーク)
  資料ダウンロード、AUDIT使用マニュアル等
  http://alhonet.jp/download.html

村田 理絵