産業保健コラム

村田 理絵


所属:(一財)京都工場保健会 診療部 健康管理課 課長

専門分野:産業保健・保健指導

ヘルスコミュニケーション

2015年12月1日

 皆さんは“ヘルスコミュニケーション”をご存知ですか?
ヘルスコミュニケーションとは、健康に関連したコミュニケーションのことで概念としては広く、保健医療の専門家が、「個人」や「集団」「社会」に対して、分かりやすく 情報を提供する等、対象のニーズに応じてコミュニケーションの専門的な知識や技術を 適用することです。例えば、特定保健指導の対象者に特定保健指導を受けてもらうためには、特定保健指導を受ける必要性等の情報を分かりやすく伝えるだけでなく、行動変容に関する理論やヘルスプロモーション等のノウハウを身につけることも重要です。昨今、人々や社会の行動変容に“戦略としてのヘルスコミュニケーション”を取り入れることが注目されています。

 特定健診・特定保健指導が開始され今年で8年目を迎えます。最近、保健支援者から「特定保健指導の対象者のうち、7~8割がリピーター(特定保健指導を2回以上受けたことがある方)で、保健指導にもマンネリ化がきている。どう打開したらよいのか?」 といったような声をよく耳にします。そこで、今回、そのような悩みの解決の糸口を見つけたいと思い、ヘルスコミュニケーションの専門家として国内はもちろん海外でもご活躍されておられる蝦名玲子先生(グローバルヘルスコミュニケーションズ代表)をお招きし、ご講義いただきました。研修に参加された産業看護職の方々に大変好評でしたので講義内容の一部をご紹介致します。

1.保健指導のマンネリ化をどう打開していったらよいのか?
 「どのレベルにおいても、コミュニケーションの基本は“相手を知ること”。対象とする人はどういう人達で、何を求めているのかを理解することが不可欠。相手を知らないと効果的なコミュニケーションをとることはできない」と蝦名先生がおっしゃっていました。
 つまり、“保健指導にマンネリ化がきている”とは、対象に問題があるのではなく、私達支援者の指導がマンネリ化しているのではないだろうか、対象のことをきちんと理解できているのだろうか、と一度振り返ることも必要です。

2.保健指導がうまくいく人とうまくいかない人がいるのはなぜか?
  一般的に保健指導がうまくいく人は“2つの効力感”が共に高い人といわれています。2つの効力感とは「反応効力感=生活習慣を改善すると、効果が出せるだろうと感じる程度」と「自己効力感=私なら、生活習慣を改善することができるという自信の程度」です。 つまり、この2つ効力感を確認し、その効力感の程度に応じて対応すると効果が出やすくなります。

3.2つの効力感の程度に応じた対応とは?
  蝦名先生は2つの効力感の程度に応じて4つのタイプに分類しています。

1)「まかせておいて子さん」
 反応効力感、自己効力感共に高いタイプ。生活習慣を改善したら、その効果が大きいし、私ならできる、と考えている。
 ⇒普通の保健指導でOKです。健康情報を対象の認識レベルに応じて提供したり、対象が行動変容するにあたって不安に思っていること等を聞きだす等し、“対象をより知る”ための時間をしっかりとるようにしましょう。

2)「自信アリ子さん」
 反応効力感が低く、自己効力感が高いタイプ。生活習慣を改善しても大して効果が期待できないからしないけど、もし私がしたら、きっとうまくできる、と考えている。
 ⇒視点を変えさせて反応効力感を高めることです。そのために、より深く質問したり、 過去の取組み等に対し肯定(承認)したり、対象の話を傾聴・要約することで相手の視点を変えていく方法があります。その他、支援担当者を変更するのも一つの方法です。

3)「自信ナシ子さん」
 反応効力感が高く、自己効力感が低いタイプ。生活習慣を改善したら効果は大。でも私にはムリ、と考えている
 ⇒自己効力感を下げている要因(個人的な要因、環境要因)を聞きだし、一緒に解決策を考えたり、過去の取組み等に対して肯定(承認)することが大切です。

4)「関係ナシ子さん」
 反応効力感、自己効力感共に低いタイプ。生活習慣を改善しても大して効果なんてないだろうし、その自信もない、と考えている。
 ⇒「自信アリ子さん」に対する対応と同様に、視点を変えさせるために相手から情報を 聞き出していくことをしながら、相手の関心(趣味等)に応じて相手が「え?そうな の?」と思わず言ってしますような驚きの話をしたり、「楽しい」いい気分にさせて、自己診断や他の行動をとる選択肢の存在を考える機会を提供します。

 2時間とおしでの講義だったのですが、シンプルで分かりやすいスライドと気の利いた小道具を用いての実践を交えながらの講義だったため、あっという間の時間でした。また、蝦名先生のプレゼン力の高さも素晴らしく、私達看護職のお手本にしたいと思いました。 
 研修会終了後にとったアンケートからも、研修会について97%の方が有益であるとの 回答でした。また、「とてもわかりやすく実践につなげやすい。私自身も“やるぞ”の気持ちにさせていただきました」「指導の際に“どうしたらいいだろう?”と考えてい たことが、今日の研修のお話で納得できました」など多数のご意見もありました。
 
 今回の蝦名先生の講義を受けて、コミュニケーションや保健指導の基本は「相手を知る こと」であり、保健指導という短い時間の中でいかに相手を知っていくのか、また、相手のタイプに応じてアプローチを変えていくスキルや戦略をたてることの重要性を実感した次第です。以下は、蝦名先生が研修会でご紹介して下さった著書です。こちらも参考にして頂ければと思います。

『ヘルスコミュニケーション―人々を健康にするための戦略』
  蝦名 玲子(著)/ラ イフ出版社  他、沢山の著書をだされています。
 蝦名先生のHPもご参照下さい。

村田 理絵