産業保健コラム

村田 理絵


所属:(一財)京都工場保健会 診療部 健康管理課 課長

専門分野:産業保健・保健指導

「産業保健スタッフ活動報告~企業におけるヘルスプロモーション活動の実際~」に参加して

2014年5月1日

今年度より、データ分析に基づく保健事業=「データヘルス」が国全体で推進されようとしていますね。「データヘルス」は健康保険組合が主体的にとりくんでいくものですが、事業者にとっても大きなインパクトのあるものになってくると思われます。
そのような中、企業においては従来から取り組まれている健康診断の事後措置やヘルスプロモーション活動等の健康管理の取組は、成果も含めて今後益々重要視されてくると思われます。

 そこで今回は、3月末に産業保健総合支援センターが開催した産業看護職研修会「産業保健スタッフ活動報告の~企業におけるヘルスプロモーション活動の実際」についてお伝えします。
 研修会は、最初に各事業場において活躍されておられる産業保健スタッフの方に実際に活動していることを発表して頂きます。その発表内容をもとに、参加者同士でグループ討議により情報交換して頂き、最後に総括としてアドバイザーの先生にコメント頂くという流れになっています。他企業の産業保健スタッフとの交流の場として頂くことと、今後の産業保健活動へのよい刺激になればと思い、年度末に恒例として「産業保健スタッフ活動報告会」を開いています。今回も40名近くの参加申し込みがありました。
 
 では、今回の研修会で活動報告された3名の産業看護職の発表内容をご紹介します。
 最初に、A社産業保健師より企業風土に合わせた健康増進活動と、教育を中心としたメンタルヘルス対策に関する取組事例を発表頂きました。健康増進活動として、①健康教育(社員全体に対し実施するポピュレーションと健康リスクの高い人に対し実施するハイリスクについて)、②健康チャレンジマラソン(全社展開の活動)、③禁煙活動(安全衛生体制の活用、健保組合と労働組合との連携)、④外部の食堂業者と連携してのヘルシーメニュー等の展開等、様々な取組みをされていました。印象に残ったことは、社員個々に合った健康取組みができるよう馴染みやすいテーマを設定するとともに、多種類の健康の取り組みメニューを準備していることと、取り組んだことに対し問診や健診データ等で取組みの評価をしていることです。産業保健師の熱心な取り組みが伝わってきました。

 次に、B社産業保健師より、フィジカル(GENKI Projectや生活調査票等)、メンタル(メンタルヘルス研修等)、職場環境(ヘルシーメニュー提供、喫煙対策、VDT対策等)の3つの面からアプローチしている事例を発表頂きました。中でも、フィジカルの面からのアプローチにおいては、「GENKI Project」と題して各職場でチームを編成し、自社製品の活動量計を使用し全社で歩数と活動量を競わせる活動や、一定以上の血圧値の社員に対し医療職面談を実施し、その対象者の日々の自宅血圧測定結果が医療職へ転送されるシステムを導入しているところなどは、IT環境が整っているB社ならではの取り組みだと思いました。

 最後にC社産業保健師より、社員食堂の「ヘルシーメニュー企画」の取り組みについて発表頂きました。健診診断の分析結果から、血圧、脂質等の生活習慣病関連の有所見率が増加していること、肥満者が増加傾向であることから「ヘルシーメニュー企画」に至ったことや、野菜の量や味などについて何度も試行錯誤をされたことなど、企画の苦労話についてお話頂きました。外部の給食業者の方や総務課の方と密接に連携して取り組まれた様子がひしひしと伝わってきました。

 その後、3名の保健師より提供頂いたテーマに基づいてグループ討議が行われ、活発な意見交換が行われました。
 そして最後に、アドバイザーの朝枝哲也先生(オムロン全社統括中央産業医)より総評をして頂くとともに、「ヘルスプロモーション」についてして分かりやすく講義頂きましたので、その一部をご紹介します。
 ヘルスプロモーションの概念について、日本では「健康増進」「健康づくり」と訳され、WHO(世界保健機関)が1986年のオタワ憲章において提唱した新しい健康観に基づく21世紀の健康戦略で、「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義されていること。「健康教育」が個人や集団の健康意識・行動に働きかけるのに対し、「ヘルスプロモーション」は健康教育の概念にプラスして個人や集団をとりまく「環境」に対しても働きかけることをも含んだ概念であること。日本では、2000年に「健康日本21」が提唱され、そして2002年に「健康増進法」が施行されるなど、21世紀に入ってから積極的に「ヘルスプロモーション」が取り組まれるようになったこと。「健康日本21」は具体的な数値目標が設定されていることが特徴で、健康情報提供型の手法であり、「節約型の健康づくり」等などと話されたことが印象に残りました。
 また、健康を売っていくためにはマーケティングにおける4P:製品(product)、価格(price)、宣伝(promotion)、流通(place)を常に考えておかなければいけないことについても教えて頂き、大変勉強になりました。

 報告会終了後にとったアンケート結果より「様々な事例や解決策を教えて頂き勉強になった」、「他の企業の方と情報交換ができる貴重な場であった」「すごくためになる研修だった」など多数の好評な意見も聞かれ、参加者にとって有意義な研修になりました。今年度の3月にも産業保健スタッフ活動報告を予定しております。産業保健スタッフの皆様、是非ご参加ご発表のご協力をよろしくお願いします。

村田 理絵