産業保健コラム

杉本 二郎


所属:杉本医院からすまメンタルクリニック 院長

専門分野:産業精神医学・精神科治療学・心身医学

ストレスチェック制度と一次予防

2018年9月3日

今年の夏は大阪北部地震に続き記録的な豪雨、極暑、台風などにより列島
は大変な被害を受けました。
京都北部も復旧に向けた動きが活発となっています。

 

災害には防ぎようのない天災もありますが、しっかりした対策や早期の
対応が為されていれば防げたかもしれない「人災」のようなものまで様々
だと言われています。

 

職場のメンタルヘルス対策でも防ぎようのない「疾病」もありますが、
作業管理(業務量や業務内容)や作業環境管理(主に人間関係)をしっかり行
うことで医療機関を受診する前に「問題」を解決できることが多々あると
思います。

 

ストレスチェック制度が、実施されて3年になりますが、この制度は
「職場における心理的負担の程度をチェックする」ことが目的であり、
一般の健康診断のように病気であるかどうかをチェックするものでは無い
と言われています。

 

健康診断は早期発見・治療を目的としたもので二次予防ですが、ストレス
チェック制度はメンタル不調者をあぶり出すものでは決してなく、「仕事
のストレスはどの程度か、それに対して周囲のサポートはあるか、心身の
状態に変化はあるのか」といった3方向からの質問に答えていただき、
医師面接指導、産業保健スタッフとの面談、集団分析等々を行うことで、
最終的には「職場の環境改善を図り、明るく風通しの良い働きやすい職場
で意欲的に働く」ことを目的とした一次予防だと言われています。

 

しかし、現状ではストレスチェックが二次予防的な役割と受け取られる
ことが多く、高ストレス者の大半が医師面接指導も産業保健スタッフとの
面談も受けず事業主が集団分析を希望しない事業所も見受けられます。

 

閉塞的で風通しの悪い事業所では、高ストレス者は誰にも相談できず精神
科を訪れることがあります。ハラスメントのような「事例性」も精神科か
ら診断書が提出されれば「疾病」として「本人の問題」とされかねません。

 

ストレスチェック制度への理解を深めて、一次予防として活用できるよう
な健康な企業が増えることを願ってやみません。

杉本 二郎