産業保健コラム

須賀 英道


所属:龍谷大学 保健管理センター教授 センター長

専門分野:精神科診断学・メンタルヘルス教育

職場におけるメンタルヘルスケアの流れ

2015年1月5日

最近の職場でのメンタルヘルス意識の向上には目を見張るものがある。社会にうつ病が急増し、産業界にもメンタルヘルスの位置付けが欠かせなくなってきたためであろう。
労働者のストレスチェックがH27年12月から義務化されることはその大きな現れである。この基本的視点は、ストレス状況にある労働者の早期発見と職場の対応である。一部にポジティブ志向によるストレスコーピング指導を取り入れた健康教育が社内で施行されるところも増えている。これは一次予防を主眼においたものとして評価されよう。
 こうした職場でのメンタルヘルスケアの動きは急速に進んでいる。しかし、いつの時代も対処がその状況に遅れてなされているのは致し方ない。感染症対策が主であった時代、有害物質対処に追われた時代、そして今は、生活習慣病やうつ病対処の時代となっている。この流れをみて興味深いのは、作業環境管理の視点からセルフケアの視点に移行していることである。これはどうしてであろうか?
 生活習慣病やメンタル疾患が個人の解決する事象として位置付けられていることであろう。うつなどのメンタル疾患が起きにくい職場整備といった意識は、長時間労働の制限など一部にあるものの、元来の適材適所的な捉え方は低い。
 そうした中で、最近若年層に目立っているのは、発達障害の増加である。小・中・高の学内での発達障害者が増え、そのサポートシステムが大きな話題となっている。そして、彼らがどんどん社会に出てくると、その就労問題が最も大きな問題となってくる。
ここで視点を捉え直すと、今後の産業界に何が必要であるか、自ずと見えてこよう。
 21世紀になり激増したうつ病は、従来の内因性のうつ病ではない。環境に適応できない適応障害性のうつ病が主になっている。そして、現在増えている発達障害についても、現代社会の中で元来のコミュニケーション力や注意処理力でうまく適応できない人たちが浮上してきたためという見方もできる。
 この視点で見ると、不適応者たちのノーマリゼーションばかりがこれから取り組むべき有効な対処でないことは、感染症や有害物質の際の作業環境管理で学んできたことである。すなわち、彼らの適応しやすい職場を増やしていくことである。半世紀前までは、こうした職場があるゆる業界に数多くあったのだが、収益向上のために合理化、効率化が最優先とされ、人員削減、自動化などさまざまな産業界の変化が進んだ。それによって、一次産業界や二次産業界での職場が激減したのである。三次産業界では、コミュニケーション力や注意処理力が最も要求される職種である。こうした職場に全ての人が適応できるわけではない。
 これからの時代に求められるメンタルヘルスケアとは、適材適所を取り入れた環境整備なのである。

須賀 英道