産業保健コラム

山田 達治


所属:京セラ株式会社 本社 専属産業医

専門分野:産業医学・メンタルヘルス

生活習慣の改善が長続きするには

2022年6月1日

 高血圧を改善しようと、毎晩ランニングをしていた従業員がいます。カロリー制限をして運動を続けても血圧は上がる一方でした。遅い時刻に激しい運動をすることが血圧に良いとはとても思えません。そこで、夜の運動はランニングではなくストレッチにすること、睡眠時間を1時間増やすことを指導したところ、収縮期血圧が平均して10ほど下がりました。

 学生時代にスポーツマンだった人の中には、自分を追い込まなければ運動をした気にならない人が少なくないようですが、高血圧や糖尿病の改善を目指すための運動は、それほど負荷が大きいものでなくても良いのです。摂取カロリーを制限して激しい運動をすれば体重はある程度減りますが、往々にして脂肪よりも筋肉を減らす結果に陥り、リバウンドを招きます。短期的な数字に一喜一憂するよりも、年齢的に無理のない範囲で筋肉や心肺機能を活性化できればよいと思います。

 また、運動とは自分の身体を虐めることだと認知している人は、運動に踏み出す際の心理的ハードルが高くなりがちです。少し物足りないレベルの運動でも、毎日実践できているのであれば、怠りや中断に陥るよりも良いはずです。

 一方、医療職側も保健指導の際には気を付けなければなりません。高血圧や高血糖を放置した結果がもたらす悲劇をよく知っているため、健康に無関心な人たちに私たちは業を煮やし、つい脅したり、半ば強制的な方法を取ってでも彼らの行動を変えようとしたりしがちになります。しかし、社員たちは日頃の仕事で、目標数値達成のためにギリギリの努力をしています。私たちまでもが、厳しいノルマを課して部下をしごく管理職のようなやり方で、彼らを締め付けたりしないようにしたいものです。

 今まで医療と無縁だった人が中高年になり、健診結果が悪いという不愉快な現実を突きつけられた時に、容易には受け入れられない人達がいることは無理もないことです。意識や行動の十分な変容には数年かかることもありますが、彼らの生活環境や嗜好に合う形での治療や健康管理のスタイルを見つけられるよう、気長に付き合うことも私たちの大切な役目ではないでしょうか。

山田 達治