産業保健コラム

長井 苑子


所属:(公財)京都健康管理研究会 理事

専門分野:呼吸器内科・膠原病・サルコイドーシス・産業保健

病気、患者、高齢化をめぐって

2018年8月1日

 超高齢社会になり、一方で出生率が低下して、今後の社会を支える
人口が憂慮されています。高齢者を支える年齢層も少なくなるわけです。
健康寿命を延ばし不健康寿命を短くし、自助自立で生き続けることが
できればとだれもが思います。
医学も医療も確かに進歩して、感染症は激減、生活習慣病もある意味、
知識や指導の普及で重症例は少なくなっているのではないかと思われます。

 

 一方で、慢性閉塞性肺疾患COPDでは、たばこ喫煙が主な原因の
慢性の呼吸器疾患ですが、最近の学会の定義では、生活習慣病の併存の
多い全身病だそうです。
もちろん高齢のCOPD患者を診るときには肺のみならず全身状態、
特に心臓や呼吸不全からの栄養不全や筋力低下など常に評価しますが、
COPDを全身病と定義するのはいかがなものかと思います。
たばこ喫煙者の15%くらいがCOPDになるといわれています。高齢に
なって症状がでて、禁煙指導が重要で、一部に、呼吸不全、心不全、
肺がん合併など重症化する場合があります。しかし、糖尿、狭心症、高血
圧、栄養不全などをCOPDの定義に加えてしまうのはどうでしょうか?

 

 肺高血圧というまれな病気では、低圧の肺循環系の肺動脈の血管抵抗が
あがって、右の心臓に負荷をかけて、進行すると右心不全がおこってくる
病気です。
原因はいくつかありますが、原因不明のものを特発性肺動脈性肺高血圧と
よびます。これの分類も、最近、肺動脈、肺静脈などの右心カテーテル検
査での詳細な分析で結構複雑になってきています。
でも、肺血管拡張薬や在宅酸素療法の普及で、生存状況がよくなり、中高
年まで生き延びられるような時代となると、当然、生活習慣病が併存しが
ちになり、このことが、心機能の変化や血管系への変化をもたらして、
肺高血圧の定義分類に影響をあたえている可能性もあるのではないかと
考えています。

 

 病気の定義を拡大したり、複雑にするのではなく、個体としての患者の
性別、年齢、生活習慣を総合して評価する中で、病気の扱い方をかんがえ
ていくという姿勢のほうが、臨床医としては妥当なように思うのは、おそ
らく私だけではないだろうと思っています。

長井 苑子