産業保健コラム

長井 苑子


所属:(公財)京都健康管理研究会 理事

専門分野:呼吸器内科・膠原病・サルコイドーシス・産業保健

産業医学相談員から

2014年4月1日

平成26年度がはじまった。人事異動などで、お世話になった方たちも一気に移動されてしまうこともある。桜の開花とそれを追うかのようにあっという間に散りゆく季節には、日本人の心を揺さぶる情趣がある。と、ここまで書いてきて、本当に、現在の若い世代でもそうなのかしらと考え込んでしまう。

仕事の関係で、医療関係者と日常的に接している分には、とくべつに大きな変化がおこっているとも思えない安定した日常が流れていく。しかし、看護師不足で、ハローワーク、ナースセンター、ホームページへの応募などの手段で応募される人を待機中の昨今、たまたま、看護師で看護大学での教師として、転職される方と話をする機会を得た。勤務するはずの学校での学生の看護師としての適性をうたがうというのである。患者さんと会話するのがいやなので、手術場を希望するとか、患者への言葉かけが一切わからない学生などが増えているという。確かに、私が大学で医学生に講義をしていても、10年前には、一番最前列には、まじめな女子学生が必死にノートをとり、やんちゃな男子学生が質問をしかけてきたのが授業風景であった。現在では、こちらから問いかけても、まずは、教師の方を見ないとか、携帯電話をかけながら階段教室の真ん中をかけぬけて出ていく女子学生などがいて、最前列の風景は完全に消えた。同席に、栄養師の専門学校で教えている先生がおられて、そこでも、栄養のバランスを教えたあとに、学生たちが、コンビニでスイーツばかりを買ってお昼にしている光景をみてがっくりしたりするといわれた。わたしが、昨年まで講義をうけもっていた保健学科では、検査技師、理学療法士と比較すると、看護師の就職の過半数が看護師を望まないとの現実に、教授からいつも愚痴をきかされたものであった。資格を取得して、医療、介護の現場で活用したいというモチベーションがこれほどまでに低下したのはなぜなのか?超高齢社会で、医療よりも介護の現場で多くの看護師や介護士が求められている。介護保険導入以来、介護の雇用は300万人ともいわれている昨今である。仕事のしんどさの割に、給料が低いとか、効率的では本来ありえない仕事であるから、成長産業とはなりえないとのコメントとかいろいろある。しかし、介護、看護、医療は、基本的に人間関係、相互交流を基本として充実する仕事である。もともと、GDPとして評価できるようなものではなく、人間としての存在の基本に触れる仕事である。行政においての予算配分の前に、仕事の性質を評価しての位置づけと、それに携わる人材の育成、支援が必要となる。財政赤字で、社会保障と税一体改革という錦の御旗も、消費税増税にばかり焦点があてられて、国の破たんしかけている経済状況の中で、超高齢社会の社会福祉の行方を考えると、だれも現実的な意見をいいにくい状況がありそうだ。

長井 苑子