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京都産業保健総合支援センター メールマガジン165号 2015/5/1
ホームページ:http://www.kyoto-sanpo.jp
発行:京都産業保健総合支援センター 所長 森 洋一


◇京都産業保健総合支援センター ホームページ情報◇

1) 「安全衛生優良企業公表制度」開始のお知らせ
                            <2015.4.3 UP>

2)  改正労働安全衛生法に基づく「ストレスチェック制度」の具体的な運用
方法を定めた省令、告示、指針の公表について
                                      
                            <2015.4.17UP>


◇メンタルヘルスチエック◇
 メンタルヘルス相談員  小林 一之

 昭和53年よりある企業の休職、復職の審査に携わってきた。最初は休職者の2-3割だったメンタル不全者がここ10数年には7-8割に激増している。何かいい手だてはないかとここ25年ぐらい考えてきた。
 検診の時、身体の異常は検査するが、メンタルの検査は行われていない。これは何とかしなければとイロイロな検査法を集め目をとおしてきた。産業医大の精神科教授にこの話をするとたくさんの検査資料を送ってくださった。集まった検査法だけで床から20センチぐらいになった。みなさんのご苦労の産物であるがどれも難しそうであった。中にはその検査をするだけでイライラするものもあった。勿論、厚生労働省のものもあったが64項目の多きにわたっていた。もう少し簡便にやれるものがないかと探したがなかなか見つからない。これは自分でオリジナルに作ったほうが、と思うようになった。
 そんなこんなで10年ほどたったある日、飛行機の中で、そうだ、こういうのが好いと閃いた。当時、今でもそうだが、私は医師びとから旅びとに職をかえていた。こういう大事なことをタイ航空の機上で思いつくというのは誠に不謹慎であるが、その陰には何回も寝床の中で考え、眠れなかった夜もあったと自己弁護しておきたい。作成したメンタルヘルスチエック(下記参照)は医師会の産業医委員会で答申し、またこのメルマガでもかつて披露した。ある企業が全国で何千人の社員に施行し結果をおくってくれたことがある。そこで私の困ったのはチエックの結果をどうするかということである。会社の知るところとなり、異動や昇進に影響があっては困ると思い、その結果は本人だけがわかりその人の自由意思で相談や診察を受けるのがいいと考えるようになった。では管理者の責任はどうするのか、また結果を知って本人が健康に過ごせるようにするのが管理者の役割ではとも考えた。
 今年12月から厚生労働省がメンタルヘルスチエックを義務付ける。各企業も検査機関もマニュアル作りに多忙である。ホームページを見るとテストはやっぱり57項目と多いようで施行、検査結果の処理が厄介である。やっていくうちに簡便な方法が出てくるのが期待される。また内容も躁、うつ、心身症は拾えるが神経症は拾いにくく、特に強迫についてはチエックできない。また何よりも大事な結果をどうするかということだが、守秘義務、不利な扱いの防止が強調されているが労働者の申し出がなかったらどうするかという点が心配である。またこれまで現実的に難しかった専門医へ結び付け、主治医との相談、意見聴取の費用などは先送りされている。
 団交でしんどい思いをした20年間の院長時代、組合が好きになれなかったが、今ほど労働者保護を考えるときはない。残業時間以外に仕事の質などに目を向けてメンタル不全が出ないようにしてくださいと労働行政畑の歴代副所長にお願いしている毎日である。

貴方の心の状態を知る13のカギ(メンタルヘルスチェック)
1.イライラしてすぐカッとなる。
2.仕事のことが気になるが意欲がわかない。
3.あちこちと体の具合が悪い。
4.眠りにくく食欲もあまりない。
5.気分がうつとしく何もやる気がしない。
6.自分なんかとるに足らない存在と思い悲しくなる。
7.何か悪いことをしているように思い時々自殺を考える。
8.不安になりちょっとした事を気にする。
9.外出時、鍵をかけたかとか電気を消したかとか気になる。
10.時々,心臓が止まりそうになりどうしてよいかわからなくなる。
11.ストレスから胃の調子が悪くなる。
12.気を使うとイライラして血圧が上がる。
13.ちよつとした事で下痢をしたり便秘になったりする。
     
 (A)1-4のみ~ストレス状態.  (B)1-4と5-7~うつ病傾向
 (C)1-4と8-10~神経症傾向  (D)1-4と11-13~心身症傾向
  
   ※(A)リラックスする方法を考える。
   ※(B)(C)(D):専門医に相談。


◇産業カウンセリングの現場から◇
 保健指導相談員 村田 理絵

2015年度は「マイナンバー制度」と並び、企業にとって重要法律といえる「改正労働安全衛生法(ストレスチェック義務化法案)」に向けて準備をされていることと思います。4月に厚生労働省より「ストレスチェック制度」に関する省令、告示、指針が公表されています。
(厚労省ホームページhttp://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000082587.html)
そこで今回は、毎年3月に実施している産業保健スタッフ活動報告のテーマを、産業保健スタッフが感心の高い“企業におけるメンタルヘルス対策の取組み”として行いましたので一部お伝え致します。今年も約30名の産業保健スタッフの方に参加して頂きました。

最初に、A社保健師よりメンタル不調による休業者が年々増加していたことから、その現状分析と予防対策に関する取組みについて紹介頂きました。“メンタル不調の予防策”を講じることは全社的に重点課題ととらえ、新入社員、管理職等に対するメンタルヘルス教育・研修の徹底、ストレス調査の実施と活用、保健師による全社員に対する面談等の様々な取組みをした結果、メンタル不調による休業者が減少した旨の報告を頂きました。現状分析に対する予防対策の効果を数値化し、職制に分かりやすく訴えることで職制のメンタルヘルス対策に対する理解と産業看護職への厚い信頼を得ることにつながり、次の課題を見出し今後の活動のエネルギーにしていることを感じました。

次に、B社保健師より、業務内容、勤務地の変更等によるメンタル不調が相次
いだ事例に対する取組みについて紹介頂きました。その事例に対し、管理監督者に向けた研修、異動者全員に対する保健師面談、すぐに保健師に相談しやすい体制づくり、社員が主体となって職場体操やストレッチ、ウォーキングキャンペーン等の健康づくりを行ってもらう仕組みづくりをすることによりメンタルヘルス対策の予防策につなげている旨の報告を頂きました。印象に残ったことは、一人一人の定期健診結果に応じたコメントを書き添えたり、月に1回のメルマガや健康講話、職場巡視での社員への声かけ、全員面談等、産業看護職ならではのきめ細やかな対応を行っておられました。このような地道な産業看護職の活動が従業員からの信頼につながりより効果的な産業保健活動になるのだと思いました。

最後にC社保健師より、事業所移転に伴う業務量増大や心理的負担等の様々な
ストレスからの健康障害のリスクをあらかじめ予測し、対策を講じることで異動後の健康障害のリスクを予防・改善した取組みについて紹介頂きました。教育・研修や調査等のメンタルヘルス対策を講じるために、人事の理解を得て予算立てを行い、メンタルヘルス対策の効果を数字で前後評価されておられ、産業看護職の見本となる取組みだと思いました。

3名の保健師の発表を聞いて、保健師は労働者の人生の大事な節目に立ち会う
ことが多く、全員面談等を通じて労働者の心のケアをすることの重要性と効果を感じるとともにメンタルヘルスの一次予防の時代到来を改めて実感した次第です。
その後、3名の保健師より提供頂いたテーマに基づいてグループ討議が行われ、活発な意見交換が行われました。
そして最後に、アドバイザーの朝枝哲也先生(オムロン全社統括中央産業医)より従来の「職業性ストレス簡易調査票」と「新職業性ストレス簡易調査票」との違い等を説明頂き、労働者のストレスやメンタルヘルスはもっと広い職場環境要因をみていく必要性があることやストレスチェック制度の課題等、大変分かりやすくご講義頂きました。
報告会終了後にとったアンケート結果より「レベルの高いお話を聞かせて頂き
とてもためになった」、「他の企業の方と情報交換ができる貴重な場であった」「内容がよかったので時間が短く感じた」など多数の好評な意見も聞かれ、参加者にとって有意義な研修になりました。今年度の3月にも産業保健スタッフ活動報告を予定しております。産業保健スタッフの皆様、是非ご参加ご発表のご協力をよろしくお願いします。

最後にお知らせです。「日本産業ストレス学会」が、毎年1回全国で開催されていますが、今年度は京都テルサで平成27年12月11日(金)~12日(土)で開催されます。“メンタルヘルスの一次予防”、“ストレスチェック制度”、“発達障害”等今話題の講演が多数予定されています。産業医、産業看護職、臨床心理士、産業カウンセラー、人事労務担当者、学生等、毎年700~800名の方が参加されています。
センターも後援をしております。是非、ご予定頂ければと思います。
(第23回日本産業ストレス学会HPhttp://www.sangyo-stress23.jp/index.html)
 


◇産業カウンセリングの現場から◇
 メンタルヘルス対策支援促進員 花谷 和雄 
 
私は、カウンセラーとして活動すると同時に時々メンタルヘルスのセルフケアやラインケアの研修をする機会を頂いて話をすることがあります。
その時、メンタルヘルスの現状の説明に平成18年7月に発表された『職場での助け合いやコミュニケーションが減少している企業ほど心の病が増加傾向』と言う公益財団法人社会経済生産性本部メンタルヘルス研究所が発表した「メンタルヘルスの取り組みに関する自治体アンケート調査結果」をよく引用します。
この調査が発表されたのは、今から9年前ですが以前から私の相談室で多くある相談内容の「職場でのコミュニケーションがとりにくく、そのことがしんどい原因です」と言う訴えと非常によく符合しているのにびっくりします。このアンケートから9年も経っていますがこの状態が改善されているようには見受けられません。
現状の組織が大変息苦しいものになっていることは、大変残念なことです。
同じ社会経済生産性本部が平成24年11月に発表したアンケート結果では、
「職場に人を育てる余裕がなくなってきている」(76.1%)「管理職の目が一人一人に届きにくくなってきている」(69.7%)「仕事の全体像や意味を考える余裕が職場になくなってきている」(68.3%)と言う結果が出ています。
この結果と平成18年の結果とを総合して考えると組織全体に余裕がなくなってきていることが伺えます。それは、現在のトレンドの成果主義と直結しているように私は感じています。
成果重視の組織では、人間関係が助け合う関係ではなくライバル関係になってしまいコミュニケーションの希薄化が進んでいるように思えるのです。象徴的なエピソードとして私が聞いたのは、ある職場で「挨拶をしよう運動」と言う呼びかけがあったと言うことです。コミュニケーションと言うより人間としての基本的な動作と思っていた挨拶も出来ていない状況があればコミュニケーションもとれる筈がないと妙に納得しました。
平成18年の調査でもこう言っています。「心の病の増加傾向を押さえていくためには、職場における横のつながりの回復と、責任と裁量のバランスがとれているような仕事の仕方の改革、そしてそれらを含めた意味での一人ひとりの働きがいに焦点を当てた活力ある風土づくりが喫緊の課題である。」と。
働く人にとって組織の中の人間関係とは無縁でいられないにもかかわらず組織が人間関係を重視する組織風土がまだまだ定着していないことを痛感しています。
しかし、ぼやいているばかりでは何も進みません。現状をしっかりと認識しより良い方向に進めるようにカウンセリングやセミナーを通じて微力ですが働く人をサポートできればいいなあと思っています。



◆産業保健に関する各種研修会のお知らせ◆
  http://www.kyoto-sanpo.jp/5semina/semina-s.htm
 ※5月~6月開催の研修会を掲載しています。奮ってご参加下さい。
 ※当センターが実施する「産業医研修会」について、付与できる単位は
  「生涯研修」のみとなります。
  「基礎研修」を受講される方は、京都府医師会主催の研修会を
   ご覧ください。
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