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京都産業保健総合支援センター メールマガジン155号 2014/7/1
ホームページ:http://www.kyoto-sanpo.jp
発行:京都産業保健総合支援センター 所長 森 洋一


◇京都産業保健総合支援センター ホームページ情報◇

1)熱中症予防のために <2014.6.11 UP>

2)平成25年「職場における熱中症による死亡災害の発生状況」及び平成26年「職場での熱中症予防対策の重点的な実施について」 <2014.6.11 UP>

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◇データヘルスと産業保健スタッフの関わりについて◇
産業医学相談員 森口 次郎

 昨年6月に閣議決定された「日本再興戦略」に、すべての健康保険組合が2014年度に「データヘルス計画」を策定し、2015年度から計画に基づいた保健事業に取り組むことが盛り込まれました。また、健康保険組合は事業者と協働して、保有する特定健康診査・特定保健指導のデータやレセプトデータを分析して、加入者の健康増進や疾病予防、重症化予防のための保健事業を行うことも推奨されており、これは「コラボヘルス」と名づけられています。データヘルス計画やコラボヘルスにより、健康寿命の延伸、医療費の削減、さらには生産性の向上などに寄与する可能性が期待されていますが、産業保健の現場では、企業と健康保険組合での情報共有における同意の取り方、データ共有による産業保健職のリスクの可能性など留意すべき点があります。
 同意の取り方に関しては、健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン(平成26年3月31日  厚生労働省、経済産業省)や関連法規に述べられていますので、ご参照ください。ここではその一部をご紹介します。個人情報保護法第 23 条第 2 項では、例外的に、本人の求めに応じて個人データの第三者提供を停止することにして、かつ、第三者への提供を利用目的とすること等についてあらかじめ本人に通知し、又は本人が容易に知りうる状態におかれている場合は、あらかじめの本人の同意を得ないで、当該個人データを第三者に提供できると規定されています(オプトアウト)。ただし、レセプトデータは健診データに比べて機微性が高い情報を含むため、保険者が保健事業を効果的に実施する目的で、レセプトから得られた情報をオプトアウトによる対応で企業等に提供する場合は、個人情報保護法第15 条及び 16 条に基づき、提供する情報の範囲を保健事業に必要な最低限の情報(医療機関への受診の有無など)に限定する、利用目的を明確に限定する等、慎重に取り扱わなければならないことも示されています。また、個々の労働者の病名や受診有無、治療内容は機微な情報ですので健康保険組合と企業が共同利用する際は同意書を取っておくべきだと考えられます。オプトアウトによって対応するならば個人が識別されない連結不可能な情報に加工してから事業者に提供されるべきでしょう。判断がつきにくいケースは法律の専門家の助言を得て慎重に運用いただきたいと思います。
 データ共有による産業保健職のリスクとしては、産業保健スタッフが個々のレセプトデータを閲覧し、通常の産業保健業務では知りえない情報(例えば、てんかんで治療中などの情報)を入手した場合、安全配慮義務の範囲が拡大する可能性が考えられます。
産業保健スタッフが健康保険組合の顧問を務めているケースなどもあろうかと思いますので、慎重なデータ利用を心がけてください。また、産業保健スタッフが個別のレセプトデータに基づく様々な労働者向けの取り組みを行うと、労働者との関係性が変わってしまうかもしれませんので、新たな取り組みによって長年培った信頼関係が損なわれないように注意が必要だと思います。
 今後、産業保健スタッフは、勤務する企業や関わりのある健康保険組合からデータヘルス・コラボヘルスに関する相談を受けることがありえると思います。早めに情報収集を行い、労働者が安心して参加できる効果的な取り組みにつなげたいものです。


◇化学物質のリスクアセスメントと個人ばく露測定について◇
 労働衛生工学相談員 髙田 志郎
 
 今般、労働安全衛生法の改正(6月25日公布)が行われ、化学物質管理のあり方について見直しが行われました。具体的には、一定の危険性・有害性が確認されている化学物質(安全データシート(SDS)の交付が義務付けられている640物質)について、事業者に危険性または有害性等の調査(リスクアセスメント)が義務付けられることになりました。一部の事業場においては、これまでも法定項目についてリスクアセスメントの実施が義務付けられていましたが、今後は640物質に該当する化学物質を取扱うすべての事業場に適用されることになります。これらについては、今後施行される政省令において詳細が示されます。
 さて、一方、化学物質についてのリスクアセスメントの実施については、リスクを評価する際に、本来は個人のばく露濃度等の測定結果から危険・有害性の見積りをすべきところを、無理やり作業環境測定結果等を基に実施していました。しかし、これまでの調査によると、作業環境測定結果等によって危険・有害性を見積もった場合、より安全側(厳しい側)に偏る傾向があることが分かりました。つまり、リスクアセスメントの結果、場合によっては、リスクの度合いが過剰に評価され、不要な投資を求められる可能性があることが分かりました。そこで、本来の手法である個人ばく露の測定が浮上してきた訳です。
 個人ばく露の測定は、現在、屋外における有害作業等において実施されていますが、屋内作業における実施の義務付けはありませんので、ほとんどの作業者および作業環境測定機関においても実施の経験がないものと思われます。この改正労働安全衛生法が施行されると、前述の理由から、個人ばく露の測定を希望する事業所が増えることが予想されます。しかし、困ったことに、個人ばく露の測定についてはいくつかの問題があります。まず、個人ばく露の測定は、原則、始業から終業までで、一般的には8時間測定を継続します。個人サンプラーは測定する物質によって異なりますが、例えば有害な金属粉じんのサンプラーですと少し重たいサンプリングポンプを腰にぶら下げて作業をすることになり、作業者への負担が大きくなります。また、640物質すべてについて測定ができるかというと、それも不可です。これら以外にも解決しなければならない問題をたくさん抱えていますので、すぐに個人ばく露測定を導入という訳にはいきません。
 でも、ご安心ください。前述のように、直接作業者に個人サンプラーを装着すること以外にも、リスクアセスメントに対応した(リスクを見積もるための)個人ばく露濃度等を推定する方法が検討あるいは推奨されています。化学物質の管理に関わる改正労働安全衛生法の施行までは、2年程度見込まれますので、これらについて順次ご紹介します。


 メンタルヘルス対策促進員 三岡 千賀子
 
内閣府の調査によると、「ワークライフバランス(WLB)」という言葉について、言葉を聞いたことがある人の割合は5割ですが、言葉も内容も知っている人は約2割と、いまだ十分に知られていないことがわかりました。
 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章では、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」が、WLBが実現した社会としています。
 WLBが注目される背景には、少子化への危機感や人材確保への対応策、企業の経営戦略等がありますが、労働を取巻く環境は厳しく、正規社員以外の労働者の増加、長時間労働により心身の健康を害する人や仕事と子育て・介護の両立など、仕事と生活の間で問題を抱える人が増加しているのが現状です。
 女性の社会参加は、1986年男女雇用機会均等法の施行により大きく進み、1997年以降は共働き世帯数が男性雇用者と無業の妻から成る片働き世帯数を上回って年々増加しています。日本では、夫が家事・育児に費やす時間は他の先進国と比較するとかなり低く、共働き世帯の育児負担割合は、ほとんど妻あるいはどちらかというと妻が育児を負担している割合が7割を超えており、子育て世代の男性の長時間労働との関係が指摘されています。
 このように女性の社会参加が進み労働を取巻く環境が変化する中、働き方の見直しが求められますが、職場や家庭、地域に残る「固定的役割分担意識(夫は外で働き、妻は家を守るべきである)」も影響を与えているようです。

 医療分野においても、人口減少、職業意識の変化、医療ニーズの多様化、医師等の偏在などを背景として医療スタッフの確保が困難な状況が生じており、私たちが将来にわたり質の高い医療サービスを受けるためには、医療分野の勤務環境を改善し、人材の定着・育成を図ることが不可欠です。特に、心身の緊張を伴う長時間労働、当直、夜勤・交替制勤務など厳しい勤務環境にある医療スタッフが健康で安心して働くことができる環境整備は喫緊の課題となっています。
 厚生労働省では、医療機関等の「雇用の質」向上を図るために、各都道府県に「医療勤務環境改善支援センター」を設置することを決定、京都府では、支援センター事業の開始に先立ち、平成26年4月から京都府社会保険労務会に「京都医療労務管理相談コーナー」を設置し、医療従事者の勤務条件改善に向けた支援を開始しています。

 企業がWLBに取り組むメリットの一つに、従業員の心身の健康の保持増進があります。WLBの一環としても、産業保健総合支援センターをぜひご活用ください。 


◆産業保健に関する各種研修会のお知らせ◆
  http://www.kyoto-sanpo.jp/5semina/semina-s.htm
 ※7月~9月開催の研修会を掲載しています。奮ってご参加下さい。
 ※当センターが実施する「産業医研修会」について、付与できる単位は
  「生涯研修」のみとなります。
  「基礎研修」を受講される方は、京都府医師会主催の研修会を
   ご覧ください。
  http://www.kyoto.med.or.jp/member/sports/index.html

◆京都産業保健総合支援センターホームページ◆
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◆産業保健トピックス◆
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◆メンタルヘルス対策支援サービスのご案内◆
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◆メールマガジン(バックナンバー)◆
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◆東日本大震災関連情報◆ http://www.rofuku.go.jp/higashinihon_daishinsai/tabid/422/Default.aspx


発行人:森 洋一  編集人:吉岡 宏修  info@kyoto-sanpo.jp
編集協力:京都産業保健総合支援センター産業保健相談員
発行/配信:京都産業保健総合支援センター http://www.kyoto-sanpo.jp